タンパク質フォールディングのエネルギーランドスケープ理論

タンパク質のフォールディングは、ほどけたひもが、生理的機能を発揮する美しい立体構造に折りたたまれる魅力的な過程です。統計力学モデルと粗視化モデルを用いて、この問題を分析します。多次元の自由エネルギー面を描くことによって、複数のフォールディング経路の間の競争や選択、階層的なファネル構造などを明らかにして、複数ドメインを持つ複雑なタンパク質、タンパク質複合体、天然変性タンパク質(IDP) の構造原理を考えます。

  • K. Itoh and M. Sasai, "Multi-dimensional theory of protein folding", J. Chem. Phys. 130: 145104_1-21 (2009).
  • K. Itoh and M. Sasai, "Cooperativity, connectivity, and folding pathways of multidomain proteins", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105: 13865-13870 (2008).
  • 笹井理生, "蛋白質の柔らかなダイナミクス", 培風館 (2008).

  • フォールディングは、典型的にはミリ秒から秒程度の時間スケールで進行します。また、アロステリック変形、酵素反応など多くのタンパク質の運動はミリ秒以上の時間スケールで生じます。しかし、通常の原子レベルの分子動力学計算ではミリ秒以上の現象を追跡するのが困難です。そこで、タンパク質を粗視化したアミノ酸残基レベルの構造モデルをつくり、分子動力学シミュレーションを行います。この方法を、タンパク質複合体形成の研究、アミノ酸配列を置き換える進化シミュレーション、構造予測などに活用します。

  • T. N. Sasaki, H. Cetin, and M. Sasai, "A coarse-grained Langevin molecular dynamics approach to de novo protein structure prediction", Biochem. Biophys. Research Comm. 369: 500-506 (2008).
  • C. Nagao, T.P. Terada, T. Yomo & M. Sasai, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 18950-18955 (2005).


  • タンパク質のアロステリック転移の理論

    多くのタンパク質は唯一の構造をとるのではなく、複数の構造をとって、条件次第でその間を移り変わることによって機能を発揮します。この移り変わりをアロステリック転移と呼びますが、どうしてそんなことができるのかという基本問題がわかっていません。アロステリック転移の原理を解明するために、フラストレーションのある場合に整合性原理を拡張して、統計力学モデルを開発し、また、カメレオンモデルと呼ぶ新しい計算科学的なモデルを開発しています。生物学の教科書では、蛋白質を人工の機械の切り替えスイッチのように説明していることが多いのですが、物理学的に考えると蛋白質は分子ですから、ミクロな熱揺らぎの影響を大きく受けて、位置の容易に定まらないスイッチのように、揺らぎながら動いていると思われます。この研究は、揺らぎがアロステリック転移の本質であることを明らかにして、これまでの機械的なタンパク質観を問い直す研究です。
  • T.P. Terada et al., in preparation
  • K. Itoh and M. Sasai, "Statistical mechanics of protein allostery: Roles of backbone and side-chain structural fluctuations", J. Chem. Phys. 134: 125102_1-18 (2011).
  • K. Itoh and M. Sasai, "Entropic mechanism of large fluctuation in allosteric transition", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107: 7775-7780 (2010).


  • 分子モーターの動作機構

    分子モーターは、化学反応のエネルギーを力学的運動に変換するタンパク質です。例えば、筋肉の主成分はアクチンとミオシンという蛋白質であり、ミオシンがATPを加水分解してアクチンからの位置がずれるのが力発生の機構ですが、この動作原理がよくわかっていません。教科書では、ATP加水分解前と加水分解後でミオシンの首の角度が変わるので、これがレバーのように動いて力が発生すると書かれています。いわば、人間のつくる機械のように蛋白質が働く、という仮説です。これに対して1分子測定の結果は、ATP1分子の加水分解に伴う自由エネルギーがなんらかの形でミオシンに蓄積され、それが小出しに、確率的に出て、ミオシンはアクチン繊維の上を何歩もあるくことができるという仮説を支持しています。これは、蛋白質は機械のように動くか?それとも強く揺らぎながら確率的に動く全然違った原理によるものか?という論争ですが決着がついていません。

    我々は、フォールディングの説明に使うモデルを応用してこの運動をシミュレートしようとしています。早稲田大の高野さんとの共同研究で、蛋白質と蛋白質の間の静電相互作用が、ミオシンが揺らぎながらアクチン上を滑る運動の原因となっていることを示すことができました。さらに、レバーの動きと滑り運動の関係を明らかにするための解析をしています。また、ミオシンVIなど、アクチンフィラメント上をプロセッシブに(連続的に)進む分子モーターについても、シミュレーションを進めています。
  • M. Takano, T. P. Terada, and M. Sasai, "Unidirectional Brownian motion observed in an in silico single molecule experiment of an actomyosin motor", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107: 7769-7774 (2010).
  • T. P. Terada, M. Sasai, and T. Yomo, "Conformational change of actomyosin complex drives the multiple stepping movement", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 9202-9206 (2002).
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